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粘液便とアップルコア

林檎の芯は要注意
 「ある銀行の外務員に紹介されて受診しました」と言って、私の前に現れたのは体格のよい63歳の商社マンのK氏でした。
 どんな悩みか聞いてみると、何とおならだったのです。この頃、放屁の回数が多くなり、そのたびに下痢便を伴うので困っていると真顔で訴えてきました。よく尋ねてみると、この下痢便というのは食あたりの時の水様便ではなく、卵の白身を掻き混ぜたような粘液便というのです。
 K氏は生来健康で、エネルギッシュなスポーツマンでもあり、これまでは医者とは縁のない生活でした。エネルギーの素はと言えば、大好物のステーキであり、洋食グルメとして巷では名を馳せていました。
 診察台の上にK氏に仰むけに寝ていただき、腹部を診察しても特に痛むところも腫癌(しこり)もない。次に肛門より直腸診を行ったのですが、これといった所見はない。しかし、私にはピンと閃くものがありました。
 便潜血反応の結果を待つ時間を惜しんで、早速大腸のⅩ線検査(一般に注腸バリウム検査と呼ぶ)を行ったところ、S状結腸に「アップルコア」と呼ばれる病変を見いだしたのです。アップルコアとは、林檎の果肉を齧りつき食べ残った芯の形に似ているのでこの名があります。大腸癌の典型的なX線所見です。
 非常に重要な直腸診
 大腸癌も増え続けている病気の一つです。その自覚症状は、K氏のように排便に関する症状が大部分です。残便感、血便、下痢と便秘の繰り返し、便が細くなってきたなどです。この症状は、癌の発生部位によって異なってきます。
 大腸癌の発生頻度が最も高いのは、直腸で大腸癌全体の50%を占めています。したがって、皆から嫌われる直腸診がいかに大切かが分かると思います。
 次に頻度が高いのがS状結腸で、およそ30%がここに集中しています。そして、上行結腸の8%、横行結腸の5%、盲腸の4%、下行結腸の3%という順に発生頻度が低下していきます。
 K氏には癌の可能性について告知し、さっそく国立ガンセンターへ入院していただきましたが、2週間後に「いやあ、おかげさまですっきりしました」 と笑顔で帰ってきました。
APPLE 今日では、大腸癌の手術成績は大変良好で、進行度を分類したデユークス分類で、A期は100%、B期は80~85%、C期でも60%の5年生存率が得られています。
 また、自律神経温存手術により、男性の性機能や排尿機能が保たれるようになりました。下部直腸や肛門管の癌では人工肛門を余儀なく作ることになりますが、7割以上の人では肛門を残すことができ、普通の生活を送れます。


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