病気Ⅰトップ

9時に多発する心臓発作

●「体内時計」と病気
 人体の生命機能は周期性があり、「体内時計」によってコントロールされています。睡眠やホルモン分泌、出産などがその典型的な例ですが、病気の発生もまた「体内時計」により生み出されている生体リズムに支配されているのです。
 今年48歳になる某新聞社に勤務しているA氏は、朝9時すぎに苦しそうにしてクリニックに飛び込んできました。
 家を出たときは、何の症状もなかったが、電車に乗っているうちに食道が焼けるような感じを覚え、駅の階段を昇ると急に胸の中心を万力で縮めあげられるような発作に襲われたと話すのがやっとでした。
 クリニックに着いてすぐに心電図をとってみると、心筋梗塞に特徴的なST上昇が認められました。それと同時に心室性期外収縮が頻発していました。これこそ急性心筋梗塞の発作です。
 これは一刻を争う緊急事態です。すぐにCCU(冠状動脈疾患集中治療室) のある聖路加国際病院のHドクターに連絡、救急車にて転送しました。幸い緊急PTCA (冠状動脈の閉塞部位をカテーテルの先端に組み込んだ風船で拡げる手術)にて危機を乗り越えることができました。
● 朝9時と夜9時に集中
 CCUに運び込まれる心筋梗塞患者を分析してみると、心筋梗塞の起こった時間帯が朝の9時と夜の9時~10時の二つのピークに集中していることが分かります。すなわち、この時間帯に心筋梗塞が多発することを示しています。
 24時間連続記録するホルター心電図による研究でも同じ時間帯に狭心症の発作や無痛性心筋虚血が起こり、突然死もこの時間帯に一致して起こることを警告しています。
 特に午前9時前後は、人体活動が静→動へ変化する時期です。交感神経系の克進があり、身体的および精神的ストレス、血小板凝集能の亢進、血管収縮などが急性心筋梗塞、心臓突然死、一過性心筋虚血、心室性頻拍などの心臓発作の引き金になっています。
 心臓発作は、全く健康な人に起こるわけではなく、発症の素地を持った人に襲ってきます。高血圧や高コレステロール血症、糖尿病、高尿酸血症を持った人のみではなく、ストレスの多い人、肥満体の人、喫煙している人、家族に心臓病のいる人など、本人に自覚症状がなくても心臓発作の危険はあると言わざるを得ません。
 また、狭心症で治療中の方は、血液が固まりやすくなり血栓ができるのを予防するために血小板凝集抑制剤を服用すべきです。冠拡張剤については、製剤により作用時間が異なりますので、「魔の9時」に作用時間の空白ができぬよう服薬の工夫が必要です。

病気Ⅰ・ページのご案内

ページの上に 戻る↑