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無痛性心筋虚血

 心筋梗塞の病態が解明され、治療法も確立したかと思われる今日、また新たな心疾患が確認されるようになったのです。それは「無痛性の心筋虚血」です。この病気は、何の前兆もなしに、心臓発作を起こし、突然死を招来するか、あるいは心筋の大部分を徹底的に壊死させるような広汎な心筋梗塞を起こすのです。

無痛性の心筋虚血とは?

 ストニー・ブルックにあるニューヨーク州立大学のピーター・F・コーン博士は、1984年、マイアミで開催された米国心臓病学会で次のような発表を行っています。「アメリカの中年男性の2~4%には、高度の冠状動脈狭窄がある。しかし、そのほとんどが無症状である。つまり、アメリカにおいて約200万人の人々が冠状動脈疾患をもちながら、なんら症状をもたないまま生活していることを意味する。この人たちの健康管理状態は社会的に大きな問題である」と。
 私のクリニックで、心臓ドツクを受診した100人のなかに、ここでいう無痛性心筋虚血の人が19人もいることが判明したのですから、アメリカでの問題がまさに日本でも同様の問題となっていることがおわかりでしょう。何しろ、これらの人々は突然死と背中合わせに暮らしているのですから。
 無痛性心筋虚血とは、負荷心電やホルター心電図で、心臓の酸欠状態を示す変化がみられるのに、本人にはその変化が感じられないでいる状態をいいます。わかりやすく言えば、狭心症が発生しているのに、本人には傷みに対する感受性が低下しており、全く気付くことがないという危険な状態をいうのです。
 コーン博士は、無痛性心筋虚血を3つの型に分類しています。一型とは、心筋梗塞や狭心症の既往がないものにみられる場合です。健康人が突然に前触れもなく心筋梗塞に陥ったり、突然死するケースが含まれます。二型とは、一度、心筋梗塞にかかったものの回復して、現在は軽症状の患者にみられるケースです。回復後、自覚症状がなくても、ホルター心電図で心筋虚血所見が記録されるのです。三型とは、狭心症をもっている人で、痛みを伴う発作と無痛性の発作の両者をもつケースです。狭心症をもつ人に、ホルター心電図を行うと、自覚症状を伴う発作は約20%にすぎず、残りの約80%は痛みを伴わない発作であると言われています。

心筋梗塞へ移行しやすい

 無痛性心筋虚血は、医師にとっても大きな問題です。胸痛を有する患者だけを治療するだけでよいのか、胸痛の有無にかかわらず心電図上で虚血を呈する患者全てを治療すべきかに関心が集まりました。無痛性の心筋虚血を有する患者は、有痛性の心筋虚血(狭心症)を有する患者と同様に、心筋梗塞へ移行することが、多くの研究から確認され、治療の重要性が強調されています。
 ホルター心電図と運動負荷心電図により、これらのハイリスク患者を発見し、十分な治療を行うことが重要なのです。

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