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「問診」は心臓病の有無のてがかりに

「心臓病学のバイブル」と呼ばれている書物に、ウイリス・ハーストの「ザ・ハート」という教科書があります。この本の扉に、医聖と崇められているウイリアム・オスラー卿のベッドサイド風景が載っています。これは4駒の組写真からなり、それぞれ「視診」「触診」「聴診」「熟考」という題がついています。これらが、心臓の「診察」法としていかに重要であるかを強調したものです。

「問診」で病名の8割がわかる

 心臓ドックでは、診察に入る前に、診断上最も重要な「問診」を行います。問診は、医師と受診者とのインタビュー形式で行われます。これが受診者から得る大切な情報であることは、言うまでもありません。また、インタビューを通じて、両者の友好的な信頼関係を築くことが、問診のもう一つの目的でもあります。
 医師と受診者との会話から、受診動機、症状、生活様式や家族歴を適切に判断しなければなりません。このとき、あらかじめ患者さんが記しておいた問診表も参考にします。
 会話の中から診断に役立つ鍵を探し、心臓病が考えられれば、その重症度についても判断します。もうひとつ重要なことは、受診者のパーソナリティ(性格)をみきわめることです。性格が心臓の発症に深いかかわりがあるからです。
 受診者の訴えの代表的なものとして、胸痛、息苦しさ、動悸、むくみ、失神、血痰、疲れやすさなどがあります。これらの症状が、いつ、どこで、どんな状況下で起こるのか、また起こっている症状の特徴について詳しい情報が得られるならば、ある病気の診断のみならず他の病気との鑑別診断にも役立ちます。
 たとえば胸痛を例にとると、いつから起こり、胸部のどこに痛みを感ずるか、どのくらい長く続くのか、痛みの性質は重い圧迫感なのか鋭い痛みなのか、放散するか、どういう時に起こるのか、どうすれば痛みが和らぐかなどです。このような詳細なやりとりから約80%の病名は推定可能であると言っても過言ではありません。
 次に「視診」を行います。これは外形的観察により診断の手がかりを得る手法です。体型、四肢の末端的肥大や太鼓ばち指などの手の変化、チアノーゼ、黄痘、オスラーの結節、黄色腫等で代表される皮膚の変化など、観察のポイントをあげれば枚挙にいとまがありません。顔を診れば心臓病がわかると言われますが、実際に大動脈弁上狭窄症の妖精様顔貌は有名です。
 「触診」はダイナミックな心臓や血管の変化を手で感じとり診断の一助とするものです。心尖拍動、振戦、動脈拍動の特徴的所見などは診断に欠かすことはできません。
 「聴診」は心臓の診察には不可欠です。血圧測定もこの聴診に含まれます。心臓弁膜の開閉音、心脛を流れる血流の音、血管を流れる血流の音、心膜から発生する音などを聴取します。心音の第一音は、僧帽弁と三尖弁の閉鎖音、第二音は大動脈弁と肺動脆弁の閉鎖する音です。第三昔は左室の急速充満期末期に、また第四音は心房収縮期に聴かれます。この二つの過剰音は、心不全の兆候の一つとなっています。
 心臓の血流雑音(心雑音)は、心臓に構造的欠損があることを示す重要なシグナルです。収縮期に聴かれる雑音は、心室中隔欠損、心房中隔欠損、大動脈弁狭窄、僧帽弁の逆流、閉塞性肥大型心筋症などで聴かれます。これと対照的に、拡張期の雑音は、大動脈弁逆流や僧帽弁狭窄の存在を意味しています。また、動脈管開存症では連続性の雑音が聴こえます。聴いている雑音が、どんな病態によるものかは、雑音の部位、性質、心音とのタイミングなどから判断してゆきます。
 その他、特異的な過剰音として、クリックといわれている音があり、収縮期雑音を伴うことが多く僧帽弁逸脱症候群の特徴的所見です。また、左房内粘液腫では、腫瘍が左室内に入り込時にプロップという腫瘍音が聴かれます。心膜炎では、心臓と、心膜の摩擦音である軋むような音をラブと呼んでいます。
 このように心臓の音を分析するだけでも、多様な病気が発見できます。
 以上述べてきた問診と診察所見から「熟考」を経て、心臓病の有無や程度を推定し、その後に続く諸検査によりいろいろな角度から実証してゆくことになります。

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